講演内容


「911から7年」


 以下は私が2008年9月11日早朝、FMラジオ局BayFMの御好意により同局番組「パワー・ベイ・モーニング」にて危機管理と日米政治の専門家として発言の機会を与えられた際の草稿である。“生放送”という関係上、私が話したかった事の一部が時間切れでお話し出来なかったので、ここに関係者の御好意により草稿を掲載させて頂く事とした。もし何かの参考にして頂ければ幸いと思う。

                 グローバル・イッシュ–ズ総合研究所 代表
                    日本安全保障・危機管理学会  会員
                          一橋総合研究所 会員
                                吉川圭一


Q:9/11から7年。まずアメリカのテロに対する危機管理の状況は?

A :年々、空港の入国管理が厳しくなっていますね。
例えば、同じ空港でも入管と税関の人は一緒にランチのテーブルに付かないくらい仲が悪かった。入管・司法省と税関・財務省というタテワリ。この税関と入管の“縄張り争い”を利用して違法な入国をするアジア人などが存在した。それが911以降、国土安全省という組織に統合。入国管理が厳しく成った。 例えばダイビングが趣味の日本人の何の問題も無い筈の真面目なOLさんが“君は何故こんなに何回もアメリカに来るんだ”と言われて空港で追い返される様な事件が実は増えているのです。特に日本人の観光客の多いハワイのようなところが、むしろ厳しく成っていますね。リピーターで来る日本人観光客が多い事が裏目に出て日本人だから怪しまれる事もあるのです。911前は日本人の真面目な生き方は米国でも理解されていたので日本人が怪しまれて追い返される様な事は無かった様なのですが…。


Q:9月6日から公開の映画『LOOK』によれば、全米には3000万台の監視カメラがあると言われていますが?

A:あの映画に対する批評の中で僕が同感したのは“監視カメラの後ろにはビデオが回っているだけだと米国民は思っている”というものです。悪い事をしなければ、ビデオは数日後にはハード・ディスクから消えてしまいます。しかし、その批評の続きで“タカをくくっている”と書いてある。やはり米国民は本来、プライバシー意識が高い国民なのです。それが監視カメラを気にしなく成っているのは、やはり911事件の影響でしょう。


Q:地震や災害に対する危機管理意識は高まりつつある一方、「テロ」に対する日本人の意識は?

A : 例えばワシントン市では、さっきの映画にも出て来る様な高度な監視カメラを含む大掛かりなテロ対策機器の展示会が最低年一回は行われています。その展示会と同時開催の研究会では、メキシコ国境で貧しい南米の少女を不法入国させようとする組織の摘発を行っている捜査官の話が聞けたり、やはり米国民の意識の高さを感じますね。単なるハイテク機器の展示会ではない。
 特に僕が驚いたのはワシントンという街は広くは無く地下鉄が発達しており、多くの市民が地下鉄を利用している。そこで地下鉄がハリケーンで浸水したらどうするか、あるいは仮に毒ガスが撒かれたらどうするか?−そういう対処の為の準備や訓練等を行っているグループの責任者のお話しを聞きました。彼はワシントン市や連邦政府と連絡を取っていない訳ではないらしいのですが、しかし全てを自分が中心になって一般市民が自らを守るボランティア活動として、そういう活動を行っている。やはり、アメリカ国民の意識の高さを感じましたね。
 一方日本の場合。それに対し実際に地下鉄に毒ガスを撒かれる事件が首都で起こったにも関わらず、また同じ事が起きた時の為の訓練をしなかったのは石原都知事が都知事になる前の東京くらいです。世界中の国の首都でサリン事件の後、訓練が行われています。
残念ですが国民も政治家も意識の高い人が非常に少ないと思いますね。意味もなく“日本でだけは起こらないだろう”と思い込んでいる人が非常に多い。また日本政府の江戸時代以来の“国民は何も知らずに、ただ政府の指導に従っていれば良い”という感覚も問題です。911直後、日本政府は“アルカイダが日本で何かやるとしたら新幹線爆破だ”という事が分かっていたのに3年間、隠していた。これはテロ集団を誘き寄せて捕まえるには良いでしょう。しかし国民自身が例えば新幹線に乗る時は高額の保険を掛けるとか自分で自分を守るチャンスと、そして意識を奪っていた事と私は思いますね。バレた以上、新幹線爆破は、もう無いでしょうが…。


Q:では次に日本で起きうるテロは「どこの」、「誰が」、「どんな方法で」?

A :まず、テロの背景にあるもの。 “テロ”とはキリスト教対イスラム教といった“文明の衝突”ではなく「経済格差」である事を今までの話の中から理解して頂けたら幸いですね。アメリカを中心にアラブ諸国でもアジア諸国でも、そして我が日本でも所謂「格差社会」が酷くなっている。それへの反感が“テロ”という形で出ている。そういう意味では実は911も6月に秋葉原で起こった事件も同じ原因から出たものと言えるように思います。そう考えてみると対策も明確になってくるのではないか?


Q:具体的な可能性として。

A:外務省関係者の一部では日本に来て単純労働をしている近隣アジアのイスラム教徒ではない外国人の中から“なぜ自分や家族が貧しいのに日本人やアメリカ人は自分達より裕福なのか?”という考えから何らかの形でアルカイダに協力する–例えばアルカイダから提供された爆弾で自分の勤めている工場を爆破する。そういう事態の想定が行われていますね。


Q:そういう事態から身を守る方法は?

A:例えば秋葉原の事件の後、秋葉原の商店街が協力して、あの様な事件の再発を防止する努力をされていますね。その中には勿論“防犯カメラを増やす”、“怪しい人間をサスマタで取り押さえる訓練をする”−そういう事もあるでしょう。
 それと同時に“ネット・カフェ難民”の様な人々の救済–という様な活動もあるのではないかと私は期待しています。原因を取り除かなければダメです。
 貧しさに苦しむ人がいたら皆で可能な限り手を差し伸べる。逆に怪しい人間を見かけたら警察と協力してでも彼らが“テロ”を起こす事を抑止する。
 そういう硬軟、取り混ぜた政策を、ただ政府に任せるのではなく、わが町は自ら守る–という決意を日本国民が強く共有する。これは上からの避難計画である国民保護法制等とは違った本物の“テロ”対策だと私は思いますね。


Q:最後にオバマとマッケインのテロに対する考え方の違い等もぜひ知りたいのですが?

A:何度も申し上げた様に「テロ」問題の根本は経済問題です。だが力でテロリストを倒す事も、もちろん重要です。また物事は何事も長期と短期で考える必要がある。
 この力でテロリストを倒す政策では、いま例の伊藤さんの悲劇を見ても分かる様に、テロの国際根拠地がイラクからアフガンに戻って来ている。そこでオバマの言っている“アフガン対策重視、イラクからの早期撤退”という考え方は理論的には、イラクにこだわるマッケインより正しいのです。だが未だイラクに残っている国際テロリストとの戦いはどうするのか?この分野では長期的にはオバマが、でも短期的にはマッケインが正しいと言えるでしょう。
 そして経済の問題。短期的には“増税してでも弱者救済”というオバマの政策がテロに走る貧しい人を少なくする為には有効です。しかし短期的です。逆に共和党の減税政策は確かに「格差社会」を一時的には酷くする。テロや犯罪を増やす可能性がある。しかし長期的には誰もが中流の暮らしを守れる様にする政策だと私は思います。サブプライム問題の解決にも実は共和党の減税政策が効果的と思います。
 こうしてみると一長一短があるのですが、まず「16ヶ月以内にイラクから撤退する」という公約にオバマは何らかの具体的メドがあるのか?そして「増税による弱者救済」は長期的には必ず上手く行かなくなる事は、われわれ日本人も良く理解している筈の事です。トータルで考えるとマッケインが正しい。
 ただ今の情勢を見ているとオバマが勝つ可能性は低く無い訳です。また日本人の特に政治に詳しい人程、共和党は親日・反中、民主党は反日・親中“と思い込んでいますが、それは今までの日本の出方も悪かったのではないか?”オバマ大統領のアメリカ“とテロ対策も含めて上手く付き合う方法も考えておくべきと思います。