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パンデミック(感染爆発)

新型インフルエンザの流行(3)

2009年6月15日(月)

六反田.jpg 防衛医科大学名誉教授 六反田 亮

 一時、世界中を大きく騒がせた、豚インフルエンザ由来の新型インフルエンザ騒動も下火になり、連日のように書かれていた新聞記事もほとんどなくなりました。テレビで取り上げられることも少なくなりました。まだ散発的な発生は見られるものの、流行が終息にむかいつつあるらしいことや、感染してもウイルスの病原性が季節性のインフルエンザと同程度であることが知られたからでしょう。国内で最も早い患者発生の見られた神戸では市や県が“安心宣言”を出しました。(5月9日の成田空港での検疫による感染確認が最初であると思われていたが、後に5月5日に神戸の渡航歴のない男子高校生が最も速い発症であると認定(5月20日確認)されました。より早く国内で感染が広がっていたと考えらます。このことは検疫の強化による水際作戦の有効性を疑わせるものです。大阪府の対策協議会は6月4日、府内の発症者が1週間余りほぼゼロで推移し、患者のほとんどが回復したことから「今回の感染はほぼ終息した」としました。しかしWHOは警戒レベルを世界的大流行(パンデミック)を意味するフェーズ6に上げようとしています(現在の世界の流行状況はフェーズ6に相当しますが、ウィルスの病原性が低いことや、経済的ダメージが大きいことから反対の意見もあります)。これを考慮して、これに伴う規制の強化(航空機の乗り入れ禁止等)は行わないことになりそうです。

 ここまで書いたところで,WHOは6月11日夕(日本時間12日未明 今朝のことです)、フェーズ6への引き上げを発表しました。ただし「国境封鎖や旅行・貿易の制限はしないよう」呼び掛けています。インフルエンザのパンデミック発生は、世界中で約100万人が死亡した1968年の香港風邪以来41年ぶりです。

 この間にだされた多くの疑問のいくつかを取り上げて考えて見ましょう。

インフルエンザウイルスはどうやって夏を越すのでしょうか。

 感染した人がインフルエンザウイルスのキャリアー(インフルエンザの症状はでてない)となり、再び冬季の感染源となるのでしょうか。

 インフルエンザウイルスは人には持続感染はありません(水禽類には持続感染しています)。治癒するとウイルスは体内から排除されます。ウイルスは散発的な流行を繰り返しながら夏を越えるのと思われます。また南半球では冬を迎えるに当たり,チリや豪州でも、当初の旅行者による感染から、地域で感染が広がる過渡期にあると思われます。南半球のインフルエンザシーズンでウイルスがどのような挙動を取るかが注目されています。

 季節性インフルエンザの流行期を迎えている南米チリで5月27日、新型インフルエンザの感染者が前日より49人増えて168人になりました。同国保健省によると、流行しているインフルエンザの9割が新型だそうです。季節性インフルエンザの流行が遅れているか、「新型」が「季節性」に取って代わった可能性があると考えているようです。さらに新型インフルエンザは南米全域に広がり南米主要10カ国すべてで感染が確認されています。また感染者数も各国で増加。チリでは31人増えて計199人になり、うち2人は症状が重いといわれます。アルゼンチンでは33人増えて計70人、エクアドルで3人増の計35人、コロンビアでは1人増えて計17人に、ブラジルも4人増加し、計14人になりました。

 WHOが最も警戒しているのは、冬を迎える南半球での拡大です。ブラジルやチリなどこれまでの発生国で感染者が100人を超えた例はありませんが、医療体制がより貧弱な発展途上国で広がると、北半球以上の被害も想定されます。

 オーストラリアでも感染患者が発生しましたが、ニュー・サウス・ウェールズ州(NSW)で子供を含む5人のウイルス感染が疑われています。感染者は1200人以上と急拡大しています。つまりインフルエンザウイルスは南半球で大規模または中規模の流行を起こして、来冬北半球に戻ってくる可能性があります。このときには病原性が高いウイルスに変異しているかも知れません。やはり最も警戒すべきパターンといえるでしょう。
 もう1つの問題は、いったん感染が収まったかに見える地域でも、数週間後に集団感染が活発化することです。米ニューヨークの学校単位の感染でも確認されており「油断は禁物」とされています。

日本の豚は感染していないのでしょうか。

(日本の豚は新型インフルエンザ発生の原因とならないのだろうか)。

 豚インフルエンザの豚でのアウトブレイクは定期的に起こっています。日本でも全くない年もありますが、数回くらい起こることもあります。世界では豚から人への感染(発症)も時々報告されています。感染しても発症しなかった人もかなりあるようです。これまでは感染の広がりは限定的であり、人から人へ持続的(ここでの持続は前に書いた持続感染とは意味が違います。持続感染は個体の中でウィルスが存在し続けることです)に広がったことはありません。

 感染・発症した豚は元気消失、食欲不振、発熱などの一般症状と鼻汁、発作性の咳、呼吸促拍などの呼吸器症状を示します。病理所見として呼吸器粘膜上皮のカタル性炎症、咽頭粘膜の充血、気管支や気管内の粘液貯留、無気肺、間質性肺炎、肺気腫などが認められます。つまり人の症状とほとんど(あるいは全く)同じといってよいでしょう。一般に予後は良好で、死亡率は1%以下ですが、肺炎に進行すると予後は悪く幼若ブタでは致死的となることがあります。

 鳥インフルエンザの流行の際に、新型ウイルスの出現を防ぐための対策は「高病原性トリインフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針」に沿って行われます。都道府県知事の権限により殺処分命令が発せられ、発生農場及び発生農場と同一飼養者が管理している農場の家禽はすべて殺処分され、死体は焼却・埋却または消毒されます。また、農場全体は閉鎖、消毒され、人の出入りも禁止されます。
 また、発生農場を中心とした半径5〜30Kmの区域では、21日間以上、生きた家禽、死体、その生産物と排泄物の移動が原則禁止されます。しかし、採卵養鶏場について規定の検査でウイルスの存在が確認されない場合は、鶏卵の出荷は認められます。また、区域内の全ての養鶏場について、2回にわたりウイルス感染の有無を家畜防疫員が調べることになっています。

 日本では鳥インフルエンザウイルスは国内で発生するよりは海外から侵入すると思われます。日本へ侵入するルートには、

1) 輸入鳥類(家きん、愛玩鳥等)を介して侵入するルート
2) 渡りの水禽類や野鳥を介して侵入するルート
3) 海外の発生国から肉や卵を輸入することによって侵入するルート
4) 海外の発生地からヒトが持ち込むルート

が考えられます。

 国内に入ったウイルスが農場へ侵入するルートには、1) ウイルスに感染している鶏を導入した場合、2) ウイルスに汚染された器材・車両・卵ケースなどを使用した場合、3) 人の衣服、手、長靴などを介してウイルスが持ち込まれた場合が考えられます。また、4) 野鳥が出入りできる鶏舎の場合や屋外養鶏場では、感染した野鳥がウイルスを持ち込む可能性があります。渡り鳥のルートの遮断は、鳥やそれらの糞との接触を避けることです。

 しかし豚インフルエンザの流行に際しこのような厳しい処置は行われていません。これは豚インフルエンザの症状が激しくないことや人への感染の危険が少ないことを考慮してのことでしょう。今回も豚の処分(約20万頭)を言ったのはエジプトだけです。エジプトは回教国であり、豚を食べるのはごく一部の国民だからでしょう。しかし実行はしたのでしょうか。

 豚は新型ウイルスの出現に極めて重要な役割を演じています。豚は鳥ウイルスと人ウイルスの両方に感染するため、豚の体内でウイルスの混じり合い(遺伝子再集合)が起こる(新型インフルエンザウイルスが出現する)可能性が高いからです。今回流行したウィルスは2種の豚ウィルス、鳥ウィルス、人ウィルスの集合体であるといわれています。

 そこで鳥インフルエンザウイルスの豚への感染はできるだけ防がなければなりません。そのためには豚舎も鶏舎と同程度の侵入防止策をとる必要があります。具体的には野鳥が侵入しない豚舎構造に変える(豚舎に金網を張って鳥の侵入を防ぐ等)、また野鳥の糞で汚染されている可能性がある水や餌を鶏に与えないことも大切です。必要な機材も消毒できるものは消毒してから、農場に持ち込むようする(これは豚の他の感染症を防ぐのにも有効です)ことも行うべきです。

 これまで新型インフルエンザは、水鳥(アヒル)とニワトリと豚が一緒に飼育されているところ、つまり中国の揚子江下流の水郷地帯やベトナムのメコンデルタ域で発生する可能性が最も高いと考えられてきました。今でもその通りですが、世界中どこでも発生すると思ったほうがいいかも知れません。

 これに関連して、今年4月にドイツの研究者が発表した論文を紹介しておきましょう。現在ヨーロッパで流行しているブタインフルエンザウイルスの全3亜型、H1N1、H3N2とH1N2はM2 Ser31→Asn置換によるアマンタジン抵抗性のウィルスで広く普及していることを認めたというものです。( Gen Virol.90,900-8. 2009)

“High prevalence of amantadine resistance among circulating European porcine influenza A viruses.”

 今回の新型インフルエンザウィルスH1N1は、これとは別のウィルスですが、アマンタジン耐性です。なんらかの関係があるかも知れません。新型ウィルスの出現が世界中どこでも起こる可能性を示唆するものでしょうか。

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